

いよいよ、SATRI−IC−SP V1.0の試作品が出来上がってきました。早速、動作テスト用のSCA−7511に取り付けてみました。しかし、電源がショートしてしまいます。一瞬、目の前が真っ暗になりましたが、気を取り直して、どこがショートしているのか探していきます。物が小さいので、頭にかけるルーペを装着してショート箇所を調べていきます。
しかし、どこも問題ないようです。次は回路の間違いがあるのではないかと、CADのデータを検証します。しかし、どこも間違いは無いようです。パターンのクリアランスも、基板メーカーさんからクリアランスが取れていないと指摘されて、修正したはずです。が、そういえばあの時、修正したのは表と裏、1、4層を修正しました。もしやと思い、内層の2,3層を重ねてみると、修正で動かしたランドが2、3層にタッチしていました。
メーカーさんに基板の修正と試作品の作成をお願いしてみると、修正はOK、しかし、試作用の部品が入らないそうです。しょうがないので、こちらに来ている2個の試作品を何とか修理することにしました。
ショートしているのはスルーホールなので、ピンバイスでスルーホールの穴を広げて2、3層の接続を切り離し、切断された配線をジャンパー線で接続しました。
7511に装着して動作を確認すると、ちゃんと動作をしているようです。これで一安心しました。
さて、今回試作できたのは3個です。その中の1個は、修理箇所を調べるために壊してしまいました。もう1個を同じように修理してみたのですが、こちらは動作しません。どうも、試作品は手作りらしく怪しい箇所が何箇所かあるのですが、手持ちの半田ごてでは、小手先が大きすぎて半田付けのところにこてが入りません。
修理は諦めて、1チャンネルのモノラルで試聴することにしました。細かい試聴はユーザーの方の試聴記が出る予定です。ここでは、今までのSATRI−IC V4.3とSATRI−IC−SP V1.0で違いがあるのか、ICをバージョンアップした場合のメリットはあるのかを調べることにします。
アンプはSCA−7511MK2、V5.1レジン付き、右チャンネルのみの試聴です。試聴ソースは自分で録音したCD、安次富さん録音の音無館CD、普段良く聴いているCDです。
大きな違いは硬さがきちんと表現されます。硬さとは、シンバル、ドラムのスティック、ピアノのハンマーとフェルト、サックスのリードとブラス、クラリネットのグラナディア・ボディーなどの硬さがきちんと表現されます。
硬さが表現できるということは、ボーカルなどの肉体の柔らかさもちゃんと表現できます。
V4.3と比べると、表現の幅が大きく広り、彫が深くなってダイナミックレンジが大きくなっています。
また、自分の録音した音源を聴くと、録音現場が思い出されるほど生々しさがあります。
初めて、原音と再生音の垣根を越えられたという感じです。
ただ、オーディオファイルの方には違和感を覚える音かもしれません。オーディオ的な快感を得られる音とは違うような気がします。
コーン型スピーカーを使われている方には、諦めていたホーンスピーカーしか出せなかったような硬い音が出ます。
SATRI−IC−SP V1.0はバージョンアップとして有効な手段であるといえます。弊社の最高級パワーアンプAMP−5540MKVも、SATRI−IC−SP V1.0を装着したSCA−7511MKUにはかないません。こんな経験は今まで初めてです。
それでは、SATRI−IC−SP V1.0の特性を測定してみましょう。
SATRI−IC−SP V1.0の開発はシミュレーションで特性の確認をしてきました。下記の表を見てください。
| 従来のSATRI−ICとの比較 | 現行SATRI−IC | 新SATRI−IC |
|---|---|---|
| SATRI−ICの名称 | SATRI−IC V4.3 | SATRI−IC−SP V1.0 |
| SATRI−ICの型番 | BPM−7110HS | BPM−7120SP |
| 基板の層数 | 2層 | 4層 |
| 銅箔の厚さ | 35μ | 1・4層110μ、2・3層35μ |
| レジストの色 | グリーン | ブラック |
| シルクの色 | ホワイト | イエロー |
| 樹脂モールド | 1液エポキシ | 無し |
| シミュレーションの結果 | ||
| 周波数特性(0db)RL=10KΩ | 10KHz | 100KHz |
| 位相(25度)RL=10KΩ | 60KHz | 90KHz |
| 歪率(10V) | 0.0028% | 0.0013% |
| 出力インピーダンス | 803.1KΩ | 2.157MΩ |
| 入力インピーダンス | 3.72Ω | 3.68Ω |
| ノーマルモード・レジェクションレシオ | −47db | −70db |
| コモンモード・レジェクションレシオ | −51.8db | −53db |
これを見ると、帯域は10倍に伸び歪が半分になっています。まずは、これを測定してみます。

上記はV4.3の周波数特性と位相特性で、上が周波数、下が位相です。これを見ると、100KHzまでフラットに伸びています。次にSATRI−IC−SP V1.0を測定してみます。

これを見ると、ほとんど、一緒と言ってもいい特性です。周波数特性はケーブルの容量、浮遊容量など色んなパラメーターが入ってくるのですが、それにしても、差が無さ過ぎです。現実の回路ではシミュレーションの結果は反映しないようです。
上記は新旧のSATRI−ICの歪率です。これを見ていただくと、シミュレーションではSATRI−IC−SP V1.0は、V4.3よりも歪は半分くらいになっていましたが、実測では最大で10分の1になっています。下記に5V出力での新旧SATRI−ICの歪波形を示します。

これは、V4,3の歪波形で、2次歪が主体であることが分かります。

SATRI−IC−SP V1.0ではご覧のように波形歪は消失しており、雑音歪が主体になっています。
このように、SATRI回路V9.0の搭載した新しいSATRI−IC、SATRI−IC−SP V1.0はPNPトランジスタとNPNトランジスタの特性の差をほとんど無くす効果があるようです。そのために、歪が少なくなり、精度も大きく向上したことが分かります。
次に、トランジスタが増えた分、雑音は増えていないか測定してみます。負荷抵抗はVR最大の10KΩとし、Aカーブを通して雑音電圧を測定しました。
| 雑音特性(Aカーブ) | SATRI−IC V4.3 | SATRI−IC−SP V1.0 |
| 雑音電圧(μV) | 61 | 59 |
驚いたことに、トランジスタが12個増えたSATRI−IC−SP V1.0のほうが雑音電圧が低くなっています。これは、プリアンプでもフォノアンプでも安心して新しいSATRI−ICにバージョンアップできます。
最後に方形波特性を見てみます。


1KHz、下が入力波形、上が出力波形、左がV4.3、右がSATRI−IC−SP V1.0です。


10KHzです。ほとんど同じですが、わずかにSATRI−IC−SP V1.0のほうが早くなっています。


100KHzです。これでも、わずかにSATRI−IC−SP V1.0のほうが早くなっています。
新しいSATRI−ICは、帯域よりもリニアリティの大幅な向上を達成しました。SATRIアンプは、これから新しい次元へ向かっていきます。